oshiro の日記

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組織の健全性について考えてみた話

特にこれと言ってモチベートされたわけではないのですが, 職務経歴書とか転職活動の準備とかをぼんやりと考えていた際に徒然に浮かんでは消えた話などをまとめてみようと思いました.
学術的な正確さとかを追及しているわけではないので, 誤った事実等があればコメントお願いします.

健全な組織とは

組織の健全性を構成する要素として以下のように考える.

  • 自己組織化されていること
  • 意思決定過程が明確化されていること
  • 多様性が保障されていること

組織の自己組織化

自己組織化の典型とは生物であり, 本論では組織をその類似性より生物的なモデルから検討する。 まずはこの「自己」とは何であるかを定めなければならないが, この定義はその活動に必要な機能を内部に保有する系とする.
つまり単なる集合を自己とするのではなく, ある目的に対する機能単位について自己ということができる.

例を挙げて考えてみる.
顧客Aに提供するシステムの開発を例にとると, 開発1課と営業1課が顧客Aの担当であるとすれば, このシステム開発チームの指す自己とは「開発1課の PM と開発者」ではなく, それに加えて顧客とのチャネルを持つ営業担当者までを含めての範囲となる.
これは企業の評価軸や所属で観測すると「開発1課(という自己組織) + 担当営業」という考えになるかもしれないが, 本論ではそのような集合については「組織」の対象としない.

では自己組織化した組織とはどのような組織であるのか.
自己組織化の概要を以下に示す.

  • 外部に対し開放系であること

    環境に対して開かれていること.
    どのような組織も自組織外である他社や他組織, ユーザーとの関わりの中において存続している. 外部とのコミュニケーションに閉鎖的であり独自の進化を遂げることは組織の衰退となる.

  • 組織が非平衡状態にあること

    平衡状態は自然的な状態であり安定しているが, 故に組織の平衡状態とは生命にとって死を意味する.
    平衡状態にある組織は行動を起こすことができず, 強力な外部からのエネルギーによってのみ活動可能な状態に復帰できる.

  • 自己が再帰的な定義であること

    組織の構成要素もまた組織である.
    しかし, 最終的な構成要素となる各メンバーについてかくあるべきと求めるわけではない.

ではなぜこのような自己組織化が健全な組織の条件となるのか. それは上記のような自己組織化した組織は自らの力によって成長し, 活動し続けることが可能だからである.

外部に対し閉鎖的であれば新たな情報やエネルギーを取り入れることができず, 再帰的に自己が定義されていなければ自己増殖(組織のスケールアウトやスケールアップ)時に同一性を保つことができず, 一様に目的を果たすことができなくなる.
平衡状態化した組織においては新規に発生する問題に対応することができず, 変化し続ける組織を取り巻く環境に適応できなくなる. 故に組織が自己組織化していることは組織健全において必要な要因であるといえる.

一方でこの自己組織化は組織目的達成のための観測可能な状態に過ぎず, 企業経営的な観点から定量指標として採用することは難しいともいえる.

意思決定における明確さ

組織運用とはあらゆる意思決定の実行である. そして明確さとは主に決定基準の明確性とそのプロセスの透明性であると考える. 計画・設計・実行・評価などの組織の行為は多数の可能性の中から一つ, もしくは複数を選択する行為である.

あらゆる意思決定はその決定プロセスのみで存在するのではなく, その決定の評価や振り返りなども含めて存在する. 故にこの意思決定における透明性とは以下の2つの観点より重要性が説明できる.

  • 決定者の判断基準として
  • 決定における被影響者の納得感

以上2点について検討する.

判断基準としての明確さ

これは自身が意思決定者たる場合にあてはまる. 例えば QCD(Quolity, Cost and Delivery) というメトリクスを採用して物事を検討しているとする. 多くの場合はこれらの3要素は互いに成立せず, いわゆるトレードオフの関係になる.
そしてこれらの決定が概ね等価であれば意思決定者としては判断するのは非常に難しい. なぜならどの選択をしても得るものと捨てるものがそれほど変わらないからである.
残念なことに, えてしてこれらの選択肢の検討で時間を消費することは資源の浪費である.

このような場合には明確な判断基準が必要となる. このケースであれば, 高単価であるが高品質なサービスという判断軸があれば, 迷うことなく選択できる. これは単に簡単に素早く意思決定できるというだけではなく, 意思決定後の評価についても大きく影響する.

特に失敗した場合に, 意思決定そのものについての責任の所在が明らかになる. 品質を取りコストを捨てた結果失敗したのであれば, それは判断による失敗ではなくターゲッティングのミスであると判断できる. なぜならば組織の判断基準に従って判断したのであれば, 誰が判断しても品質を取る結果になったからである.

もちろんこれは QCD を分析指標として使用したこと, そしてその分析結果が正しいものであるということは前提であり, 様々な文脈を考慮しなければならないことはいうまでもない.

被影響者の納得感

意思決定は社内コンペや人事評価, 提案の競合など組織内部に向けて行われることも珍しくない. そして多くはその決定によって誰かが不利益を被ることになる. 評価や選考がブラックボックスに行われていれば, 不利益となった側にとっては相当なストレスと不信感となる.
また, 基準が明確でなければどのように準備をしそれをプレゼンすれば良いかも不明瞭である.
不明瞭な目的に立ち向かうということは, 風車に突撃するドン・キホーテと相違ない.

このような状況では被評価者の費やした準備が徒労に終わるだけでなく後々まで遺恨を残すことになりかねない. 特に日本人は「自分の内的状態が他者に実際以上に明らかになっていると過大評価する(鎌田)」傾向にあり, 対人相互作用として実際以上の影響を与えることになる.
つまり本人は「これだけ準備を念入りにして臨んだのに, よくわからない理由でリジェクトされて自分のものよりも劣る提案が採用された」という遺恨だけが残りかねないわけである.
評価者と被評価者がお互いに「そうなのだろう, お前の中ではな」と考えあうという最悪の状況を引き起こす.

そのためにも判断のプロセスとその基準については可能な限り明確になっていることが望ましい.

多様性の保障

最後に多様性の保障がなされていることである. 日本では多様性, つまり divercity について以下のように理解されている

「ダイバシティとは『従業員の多様性』のこと. 性別, 人種, 国籍, 宗教など, 異なる背景や価値 観を持つ人々がともに働くことで生産性を向上し, 創造性を高めていこうという考え方」 (労基旬報 平成 15 年 10 月 15 日号)

筆者は多様性の研究者ではないし活動家でもなく, 多様性そのもに関する話を展開することはしない.

健全な組織であるためには, そのメンバーを社会的背景(性別や国籍, 出身地等)や必要以上の個人的な事情によって制限することがあってはならない.
マイノリティを理解仕様とする姿勢や優遇制度などの必要は無いと考えるが, 育児や進学, 介護などといった個人的な事情への配慮やそのような扱いへの不平不満が出ないような環境を作り, 組織のパフォーマンスの最大化を考えられる文化的土壌が望ましい.

参考文献

海老沢栄一『企業評価の新指標 -組織健全性概念を中心として-』日本経営診断学会年報(1999) Vol.31 鎌田晶子『透明性の錯覚: 日本人における錯覚の生起と係留の効果』The Japanese Journal of Experimental Social Psychology(2007) Vol.46 山口智彦 『さまざまな自己組織化とその工学的応用』, 表面技術(2011)